・適応障害とは何か(弘文堂『新版 精神医学事典』より転載・一部改変)
適応異常、不適応とも言う。適応の過程は生理的課程、生理・心理的過
程、心理的過程など、様々な領域から取り上げられるし、また個体の部分
的適応の過程から全人格的適応まで様々である。
適応障害の場合にもその様相は同じである。様々な生活領域(過程・学
校・職場)に関して外的適応(客観的に見て、社会的文化的基準に依拠し
ながら他人と協調し、まあ他人から承認されている場合)と内的適応(個人
の主観的世界、現実的内的枠組における適応。自己受容、充足感、自尊
感情など)を区別できる。これらの様々に区別される適応の過程・領域のい
ずれにせよ、上手くいかない状態を適応障害と呼ぶ。
適応に失敗した場合、心理的に欲求不満が生じるが、その不満に耐え、
コントロールする力が誰にも多少なりとも存在する。この力を耐性と言う。
心理的には不満が耐性を超えた場合、人格的な混乱を引き起こすといえ
る。適応障害には、一過性の単純な適応の困難から、持続的な社会的
不適応、慢性的な内的葛藤(外的・内的適応障害)まで様々である。
適応障害に至る要因は大きく次の三群に分かれる。(1)疾患によるもの
:この中には身体的原因(流行性脳炎、進行麻痺、脳の外傷など)、内因
性精神病、神経症などが含まれる。(2)人格障害や欠陥によるもの:反社
会性人格障害(非社会性人格障害)や境界性人格障害(情緒不安定性
人格障害の境界型)、統合失調質人格障害、知的欠陥など。(3)状況に
よる適応障害――人格的要因よりは環境的要因による所が大きい、正常
な人にも現れやすいもの。これは前二者の持続的な障害に比べて、一過
性の適応障害であることが多い。また適応規制を考える上で、適応障害と
適応を対立概念と考える立場と、例えば非行やヒステリー反応も、一時的
にせよその個人の安定追求のやり方で、適応への過程とみる見方がある。
なお、米国精神医学会の精神疾患の統計・診断マニュアル DSM-Ⅳ-
TR 新訂版によれば、適応障害の診断基準として、次の五つを挙げてい
る。A.はっきりと確認できるストレス因子に反応して、そのストレス因子の
始まりから3ヶ月以内に情緒面または行動面の障害が出現。B.これらの
症状や行動は臨床的に著しく、それは以下のどちらかによって裏づけら
れている。(1)そのストレス因子に暴露されたときに予測されるものをはる
かに超えた苦痛。(2)社会的または職業的(学業上の)機能の著しい障
害。C.ストレス関連性障害は他の特定のⅠ軸障害の基準を満たしていな
いし、すでに存在しているⅠ軸障害またはⅡ軸障害の単なる悪化でもな
い。D.症状は、死別反応を示すものではない。E.そのストレス因子(ま
たはその結果)がひとたび終結すると、症状がその後さらに6ヶ月以上持
続することはない。そしてその病型として、抑うつ気分を伴うもの、不安を
伴うもの、不安と抑うつ気分の混合を伴うもの、行為の障害を伴うもの、情
緒と行為の混合した障害を伴うもの、特定不能の九つを挙げている。この
考え方はどちらかと言えば上述の正常人にも現れやすい一過性のものを
指しているといえる。
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